九年目の朝(14)
(拙書より)
中学の理科には食物連鎖を学ぶ分野がある。生き物を「生産者」「消費者」「分
解者」に分けて、その役割や関連を教える課だ。「誰がいちばん偉いのか」は、
生き物の頂点に立つのは人間であるという物の見方が、諸悪の根源ではない
のかとすら思う私の、冗談ではない冗談クイズだ。答は、唯一の生産者である
「緑色植物」になる。時にキザなセリフも混ぜ込む。
「彼等はジタバタしない。吼えない、喚かない、説教もしない。黙々と創り出す。
創られた物で、すべてが支えられる。尊敬。もひとつおまけ。その植物を、ミミ
ズやダンゴムシが分解した栄養が育てるわけだからミミズさまさま。ハイエナ
はウンコや死体提供してくれるしガマガエルもそうだし、人間だけがただの加
害物かもね。せっかくのウンコは薬品処理だし、死ねば燃やすしさぁ、ああも
ったいない」
コスモスが咲き乱れる頃、文哉君の電話は月に一度になった。近くのコンビニで
バイトを始めたと言う。
「センセ俺、金貯めます。目標額できたら、使い道言います」
十一月が来て正月が過ぎて、受験が終わって桜が咲きそして散り、煮えそうな夏
が終わるとまたコスモスが丸い蕾をかざした。忙しさに取り紛れても電話が減って
も、文哉君は遠くはなかった。ときどきになった電話は、変化の要所を几帳面に伝
えてきた。ある日の電話ではデッサンを始めたと語った。
「センセのトコ通り過ぎて週ニで行ってるんですよ、画塾。降りたいときあるんです
けど、まだ俺らしい顔になってないなと思って」
目標額が達成できた日その使途を告げ、その話の中に取り混ぜてさりげなく、初
めて父のことを口にした。
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