九年目の朝(11)
(拙書より)
ある朝の電話が彼からだと分かると、むしろ不審感が湧いた。
「ホントに文哉君? 早いのね。なんかあったんじゃないわよね?」
「ああ、はい、少し早くして、っていうか…。なってます、起きるの」
部屋を片付けてますと唐突に言う。片付ければ片付けるほどゴミが増えるから変
だと笑う。やり過ぎて熱が出て、二日寝込んだとまた笑った。それでいて「また電
話します」の後に恐ろしい一言を漏らした。
「片付けながらフッと思うんですよ。こうしておけば俺、死んでも迷惑少ないよなぁ
って」
「ちょっと! バカ! 変なコト言わないでよ!」
思わず喚いた私に「もう、自分からは死にませんよ」と彼は言い残した。私はまた
ティッシュペーパーの箱を抱え込む。『もう』に抉られて嗚咽した。母が知っていて
伏せたとは思えない。十六歳なのか十八歳なのか分からない。たった一人で死
のうとした子が、しばらく私を泣かせ続けた。
泣いたり待ってはならないと自制したりの私をよそに、今度は十日ほどして彼は
電話の向こうからこう言った。
「センセ、料理好きですか?俺この頃はまりかけてます。やっぱり、なんか作るの
っていいですよ。作る仕事っていっぱいありますよね。何するかなぁ」
一週間もしないうちに、勢いこんだ声がした。
「『人は自分らしくないことしても続かないわよ』って、センセ言いましたよね。俺っ
てどんな人ですか?」
三日後に、
「共室の頃、センセ言ったよね、俺って創造力あるって。あのときのノート見つけ
た。あのときは落書きのつもりだったのに、いま見たら、なかなかだった。でもあ
れだけでセンセ分かるんだ。マジっすか」
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