かくれ難問題(4)
(拙書より)
「そういうのとも、ちょっと、な」
ふたりはどちらからともなく、ほとんど同時に言って顔を見合わせる。コンビニ
で村井君も見かけているから、親友への安易な同調ではなさそうだ。
「イイトコ坊ちゃんぶってる、って感じ。な」と頷き合った。
「こんばんは、って、そういう挨拶アリでもさ、同級生とかに言わないでしょ、セ
ンセ。俺、言ったことも聞いたこともねぇもん」
村井君は、その不自然さが私には分かるはずだという顔で、口を尖らした。後
を受けて原田君は、給食のとき膝にハンカチをかけるのだと複雑な表情をして
見せ、牛乳の飲み方まで真似た。牛乳を持った右手の小指を立て、左手は下
に添えたゼスチュアで、実に恨めしそうな目をする。
「わぁ、ヤバイなぁ。私もだめだぁ、そういうの…」
少なくとも障害で悩んでいる子ではなさそうだと思ったとたん、気が緩んでつい
本音を漏らした。二人は、自分たちの当てにしていたとおりの私の反応で、少し
は溜飲が下がったのか、坐り直して勉強道具を取り出した。
私のほうは、思いがけなく聞かされた、変わった子の話から、簡単に抜け出せ
なくなった。どちらかと言えば人間嫌いかと思う自分が、中学生に限っては無条
件に好きになれると思っていたのに、それは好きになれない子に出会わなかっ
ただけではないかと振り返ると、急に自信がなくなる。自分を疑い始めると、私
の何倍もの生徒たちと接触する、学校の先生たちに思いが及んだ。当の「イイ
トコ坊ちゃんぶりっこ」君を、担任の先生はどう扱っているのだろう…。
みんな仲良く、まとまったクラス…、担任になると先生たちは、まずこの目標に囚
われるらしい。そんな折、あからさまに和を乱す子はさておき、個性としての変わ
り者と、その子を遠巻きにして馴染まない子たちをどう融和させるか、その苦心
はおそらく笑いごとではないだろう。
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