雪崩のあとさき(13)
(拙書より)
五月半ば、彼は修学旅行に行った。六月の彼は意欲的だった。七月の彼は
もっと熱中した。修学旅行で中間テストがなかったぶん、範囲の広くなった期
末テストに向けて、憑かれたように勉強した。頬の丸みが落ちて、顎が角張っ
て見える。「寝不足じゃないの?痩せてない?」と聞くと「いえ、一センチ伸びま
した。体重は同じです」と胸を張ってみせた。
中学三年生は、人間の一生のうちでも、特に感動的な変化を見せる子が多い。
少年の面差しから青年の顔に移ろう刻々は、山の中腹を流れる雲が山肌の色
を変えていくさまに似ている。少しずつ、独りで歩かなければならない日に備え
て甘さを脱いでいくさまに、エールを送るよりも涙ぐましくなる。
孝一君は、期末テストで全科目平均点を超え、数学の先生に「お前、ずいぶん
頑張ったな」と声をかけられたと伝えてくれた。
終業式の夜、彼の母から「明日、伺いたい」と電話があった。翌日、キュウリや
ミニトマトでいっぱいのポリ袋を提げて、そこだけよく似た切れ長の目の人が現
れた。相変わらず気忙しそうに、挨拶とトマトの話を取り混ぜて述べたが、その
日は腰を降ろした。
「まず先生にと思って…。見てやってください、あの子、本当に頑張ったんですね」
彼女は嬉しそうに、二つ折りの通知表を広げて差し出した。面談の日示された中
学一、二年の通知表のほとんどを埋めていた②が消えて、④が二つあった。学
期の講評欄を読んでいる途中で、待ちきれないように「あの…」と声がする。
「先生…、あの子、何していただいたんでしょう…。十年も悩んで、あちこち相談し
てダメだったヤニョウショウ、こちらに伺って一ヵ月ほどでピタッと止まって…。お
蔭様であきらめていた修学旅行も行けました。半信半疑だったんですけど、一度
もありません、もう」
頭の回線が繋がらない。ヤニョウショウ?夜尿症?
「嘘!何も、してません!」
私はたぶん叫んでいた。そして、支離滅裂なことを言った。
「何もしてません。ホントに何もしてません。ただ、ちっちゃな孝ちゃんと雪穴掘っ
て、ふたりでずっと坐ってました。修学旅行、隣のおばさんと、関係なかったんだ」
呆けたように坐り続けた私には、その母がいつ帰ったのか、記憶がない。
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コメント
あけましておめでとうございます。
お初のコメントありがとうございますです^▽^♪
ココに来て、中学生だった自分が、スッカリ大人気分で居ながら何にも知らない子供だった事を思い出しました。
そして(我が子は居ないけれど)子供たちがすっかり大人な外見とは裏腹に、危うくて大切な時期を過ごしているんだと気付きました。
今は道行く子供ら皆がなんとな~く愛しいような心配なような気分です。
・・・人の事いってる場合じゃないんですが・・・^_^;
今年もまたよろしくお願い致します。。。
良い年になりますように(-人-)
投稿: ちょん | 2008年1月 1日 (火) 15時30分