雪崩のあとさき(12)
(拙書より)
「わあ!どうしたの?すごい大根!」
「ウチ、畑やってます。広志、土いじりすきだから。葉も食べてください。無農薬
です」
もらった側の私よりいそいそと、ずしりと重い大根を手渡した。
「あの、たぶん、まだたぶんだけど、俺、修学旅行、行けると思います」
「まあ!本当?」
応えながら、「どこにも行ったことがない」としゃくりあげた日がズキンと蘇った。
弟がなついていると言っていた、隣のおばさんのお陰だろうかと、見知らぬ人
に感謝した。
「それと、あの、俺、B高狙ってみます」
「えっ!ほーんと?すごーい、C高より上じゃない!」
あの日たくさん泣いたのは、小さな孝ちゃんだった。少し大きな孝ちゃんは嗚咽
を噛み殺した。大きな孝一君は、噛み締めた奥歯から切れ切れに、うめきに近
いいくつかの言葉を搾り出した。
「父さん『なんだこの成績は!C高も行けないだろ!父さん、こんなみっともない
通信簿もらったことない!』って言った」
そう言いながらすぐ、その父をかばった。
「父さん、海外ばかり行ってる。忙しくて疲れてるんだ。だから癇癪起こすんだ」
母のことはもっとかばった。
「母さん大変なんだ。ときどき、すごくかわいそうなんだ」
だから俺しっかりしなくちゃなんだ…うめきの底から、そう聞えた。
あの日からわずか一週間目の彼は、漲るような気力をこめて志望校の名を言
った。
「うん、がんばろ!B高だってA高だって、あなたなら大丈夫よ」
…小さいときから、お母さんやお父さんまでかばってオニイチャンをやってきた
んだもの…、あなたにできないことなんて、ないわよね…。
私は麓で雪山を見上げる者に似ていた。雪の量を誇らず恨まず、山はそこに
在る。だから人は惹かれるのだろう。
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