メロスたちの夢(15)
(拙書より)
「俺とは遠くなるけど、今度はあいつ働くと切符買えるから、真中の場所で会え
ます。それと俺、工業高校に行きたいです。将来はあいつと二人で、もしかした
ら弟も一緒に、水道とか電気とかの工事会社つくります。それ、前からの夢です」
翌春三月に、佐山君は工業高校に合格し、親友はその少し前に母親の元に住
所を移して、定時制高校に内定した。
佐山君が去って、五年の月日が流れた。
毎年一人か、二年に一人かの割合で、生涯に残る印象深い出会いがある。別
れた後は、そのとき目の前にいる子に夢中で対応して陰に押しやられていても、
刻まれた人柄の記憶は月日に薄められない。ほんの小さなきっかけでも、佐山
君に結びつく。小柄な子に会えば「彼、背伸びたかな」と思い、黒目がちな子を見
かけると、理由の判らなかった苦悩の日々の視線が蘇る。
― どうしているかなぁ…、親友君、定時制卒業できたかなぁ…。音沙汰ないのは
本当に無事の証拠かなぁ…。
滅多にない休日の午後を楽しんでいたとき、その佐山君からの電話を受けた。
「以心伝心ね。思い出してたトコ」
その瞬間に消えた「五年」は、その夜迎えた姿で、短い時間ではなかったのだと
再確認させられることになる。五分刈りの頭髪に精悍な日焼けした顔も目を見張
らせたが、なによりも小柄とは程遠い背丈が眩しかった。
「道ですれ違ったらわかんない」と私。「自分が気づきます。先生、全然変わってま
せん」そんな会話のあと、彼にとって「五年」は、決して平穏な日々ではなかったこ
とを知る。
「高校卒業後、自衛隊に入りました。両親が離婚して両方とも再婚するとき、自分
には、衣食住完備の魅力、大きかったんです。それに、いろいろな免許も取れて、
蓄えも作れます。ああ、あいつ、埼玉の水道工事会社で技術見習いやってます。
元気です。先生に一度会いたいと言ってました。名刺預かってきました」
佐山君は白い封筒の上に一枚の名刺を乗せて、テーブルを滑らせて私に差し出
すと、正座し直して武道家のようなお辞儀をした。
「これ、長い間ありがとうございました」
私は無言で名刺の名を眺めていた。白い封筒を押し戻して、「あげたつもりよ」と
言うのも、「十年後でいいのに」と言うのも、当時の彼等も私たちをも汚すように思
われて、軽く会釈したまま黙っていた。
「配属が替わって、来週広島に転勤します」
そう言い残して佐山君は遠くなった。
いま、白い封筒は、彼等の会社の設立祝いになる日を待って、そのまま仏壇に載
っている。
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コメント
ご無沙汰してました。
『いいお話・・』だと感じました。でもそんな言葉だけで表現するのも、どうにも当てはまらなくて・・・。
でも、こんな大人がそばに居てくれるという事は子ども達にとって心底大切な事なんだと思います。
上手くいえません。ありがとうございます。
投稿: ちょん | 2007年11月23日 (金) 19時00分