メロスたちの夢(7)
(拙書より)
初日、彼は入室申込書を持って帰った。申込書には、指導費の納入法が二通
り書いてある。銀行振込と納入袋で持参する方法である。子ども同士のお金の
貸し借りや、恐喝まがいの噂も耳にするので、子どもにお金を持って歩かせな
いように、なるべく振り込みをと一言添えるのだが、半数の母親たちは手軽な納
入袋を希望する。彼が納入袋を請求しないのは、銀行振込にしたためなのだろ
うと、しばらくは不審も不安もなかった。申込書の提出がなされないのも、二度目
のためだろうと解釈していた。しかし、一ヵ月をだいぶ過ぎた頃の記帳で、納入さ
れていないことが分かる。
― あのお母さんが二ヵ月近く忘れているはずはない…。
とたんに彼の、微妙な落ちつかなさと結びつけそうになって、慌てて飛びのいた。
その安易な勘繰りは、まさに大人特有の手抜きである。
― 案外手渡すのをすっかり忘れて、鞄の中でクシャクシャだったりして…。
子どもに限らず人がうわの空のときは、予想外な失敗もする。余計な気の回し方
などせずに、さらりと問うべきだと思い直した。
「ね、申込書くれる?」
「ああ」
佐山君は鞄の底をまさぐり、鞄の中で茶封筒から申込書を引き抜いてよこした。
茶封筒は、私がその中に申込書を入れて渡したものではない。
本人だけで申し込みに来た場合、持ち帰った申込書に初回の費用を添え、封筒
に入れて持たせる親がほとんどだ。封筒に金額を書き、よろしくお願いしますと記
す人もいる。彼は申込書だけ、引き抜いてよこした。
「ありがと」
受け取って広げ、納入袋を囲んだ印を見て、「あ、袋要るんだったのね」と、私は
言った。
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